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朗読のページ 名作文学の朗読

太宰 治作品

「粋人」LinkIcon樋口一葉「わかれ道」

「ものには堪忍という事がある。この心掛けを忘れてはいけない。ちっとは、つらいだろうが我慢をするさ。夜の次には、朝が来るんだ。冬の次には春が来るさ。きまり切っているんだ。世の中は、陰陽、陰陽、陰陽と続いて行くんだ。仕合せと不仕合せとは軒続きさ。ひでえ不仕合せのすぐお隣りは一陽来復の大吉さ。ここの道理を忘れちゃいけない。来年は、これあ何としても大吉にきまった。その時にはお前も、芝居の変り目ごとに駕籠で出掛けるさ。それくらいの贅沢は、ゆるしてあげます。かまわないから出掛けなさい。」などと、朝飯を軽くすましてすぐ立ち上り、つまらぬ事をもっともらしい顔して言いながら、そそくさと羽織をひっかけ、脇差さし込み、きょうは、いよいよ大晦日、借金だらけのわが家から一刻も早くのがれ出るふんべつ。家に一銭でも大事の日なのに、手箱の底を掻いて一歩金二つ三つ、小粒銀三十ばかり財布に入れて懐中にねじ込み、「お金は少し残して置いた。この中から、お前の正月のお小遣いをのけて、あとは借金取りに少しずつばらまいてやって、無くなったら寝ちまえ。借金取りの顔が見えないように、あちら向きに寝ると少しは気が楽だよ。ものには堪忍という事がある。きょう一日の我慢だ。あちら向きに寝て、死んだ振りでもしているさ。世の中は、陰陽、陰陽。」と言い捨てて、小走りに走って家を出た。

山田 レイコ
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日本演技アカデミーから劇団芸協 同人会を経て、劇団櫂の旗揚げに参加。その後、岡本 一彦氏との出会いにより、劇団を離れ仲間と共にレッスンを開始。また故高橋 博氏に朗読を師事し、加えて日舞、バレー、義太夫を学ぶことでひとり舞台の基礎をつくる。
1989年から、「山田 レイコ ひとり舞台」を国立演芸場にてスタート。
1999年度文化庁芸術祭演芸部門で優秀賞を受賞。広島出身

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